草野球の夢 海渡るマリナーズを説得5年 本拠借りた
スラッガーズのおっちゃんら20人 イチローの右翼「オレや」
日本の草野球の愛好者20人が19日に渡米し、大リーグのシアトル・マリナーズの本拠地セーフコフィールドで試合をする。球団を5年がかりで説得し、一途なあこがれを実らせた。気分は「草野球のサムライ」。イチローの守備位置ライトは、「オレが守る」と争奪戦になっている。
企画したのは、大阪市中央区の吉崎賢博さん(44)。阪神甲子園球場や東京ドームなど、プロが使う球場を会場にした草野球の全国大会「KUSA1」を03年に立ち上げた。
ドーム巡り 甲子園も
「プロが使う球場でやってみたいよなー」。KUSA1発足のきっかけは01年、飲み会での冗談話だった。当時吉崎さんが仕事仲間でつくった「典型的なおっさんチーム」飛び抜けてうまい選手もおらず、練習場所は河川敷。和気あいあいと楽しむのがモットーだったが、何か、刺激が欲しかった。念のため調べると、京セラドーム大阪は、真夜中なら2時間約10万円で借りられることがわかった。ひとり数千円ずつ払い、午前0時、胸を高鳴らせてドーム入り。天井が高い。外野が遠い。「地に足つかず、ふわふわした気持ちだった」。グランドに寝っ転がって深呼吸してみた。
「野球ピラミッドの最底辺の自分たちが、プロと同じ場所に立っている」。それだけで、いつもよりうまくなった気がした。ユーレイ部員も好奇心を抑えられずにやってきた。家族らは眠い目をこすりながら、ベンチから声援を送った。みんなで共有する充実感と一体感。
「これだ」。やみつきになり、名古屋、福岡、東京などのドームに遠征した。03年に「KUSA1」を始めると口コミで評判が広がり、全国の約200チームが参加する大会になった。
甲子園球場での試合も実現して、一通りの「聖地巡礼」が済んだ04年、「次は大リーグにいくか」。だが思わぬ壁が。米国では、空き時間に球場を貸し出す発想がない。マリナーズなど複数の球団に電話をかけたが、相手にしてもらえなかった。
吉崎さんはめげずに英語版のホームページを作り、「KUSA1」の活動を紹介しながら、電話やメールで地道に呼びかけた。マリナーズが日系人の球団職員を介して耳を傾けてくれたのが07年秋。その後も芝生の養生を理由に断られたり、日程調整に手間取ったりしたが、ようやく大型連休「シルバーウイーク」にあわせて前代未聞の遠征が決まった。「ねばり強く訴えたことで、『この人ら本気なんや』とわかってもらえた」
「いい年しても少年」
渡米するのは、KUSA1の全国大会で準優勝経験もある大阪の草野球チーム「スラッガーズ」のメンバーら約20人。21日、米国のクラブチームや現地在住の日本人らを相手に2試合する。費用は一人あたり約30万円。石川哲也監督(49)は「みんな、『オレがイチローのライトを守る』とうるさい。ローテーションにします」と苦笑する。
右翼手の会社員今井優さん(26)=大阪市八尾市=は英語で選手宣誓をする。「国籍や言葉は関係ない。野球でつながろう」と呼びかけるつもりだ。「いい年しても、中身は野球少年のまんまなんです。1球目はとにかく振るスイングでいきます」